毎年年末のこの時期になると、企業の人事・総務・経理担当者の多くが憂鬱な気持ちになるのではないでしょうか。
また、度重なる法改正に対応しなければならない年末調整/給与計算システム事業者にとっても、頭を悩ませる時期かと思います。
かくいう弊事務所も、年末調整の時期は非常に忙しくなります。月例給与計算を受託している関係から、「年末調整は社労士事務所がやるもの」と認識され、ご依頼いただくケースも少なくありません。
しかし、年末調整は本来社会保険労務士の業務ではありません。
いわゆる「業際問題」に該当し、所得税法に定められた年末調整業務そのものを社労士が行うことはできないためです。ただし、企業の年調担当者の負担を軽減するための実務支援は可能なので、その範囲で日々勉強を重ねながら対応させていただいております。
今回は、この年末調整についての現状や、今後の在り方についてお話させていただきたいと思います。
令和7年度税制改正により年末調整がさらに難しく
最近では「年収の壁178万円」合意というニュースが話題になりましたが、令和7年度の年末調整ではいわゆる「160万円」の壁へと制度が移行し、基礎控除額が大きく見直されました。
基礎控除額の見直し内容について
国税庁の「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」では、以下のように改正されています。
・合計所得金額132万円以下:95万円(改正前48万円)
・合計所得金額132万円超336万円以下:88万円(令和9年分以後は58万円)
・合計所得金額336万円超489万円以下:68万円(令和9年分以後は58万円)
・合計所得金額489万円超655万円以下:63万円(令和9年分以後は58万円)
・合計所得金額655万円超2,350万円以下:58万円(改正前48万円)
昨年まで48万円だった基礎控除が、最大で95万円になるという大幅な変更になっています。
その中で問題なのは、この「所得金額」が従業員本人の自己申告に委ねられている点にあることです。これは従業員の皆様ご自身の所得金額認識のレベルにばらつきがある会社様の場合、対応するのが非常に大変になります。
・ご自身の給与収入および所得を、11月時点までの給与収入で申告してしまう
・前職の所得が合算されていない
・賞与の存在を失念している
いわゆる「基・配・特・所」と呼ばれる申告書に記載される金額ですが、上記のような内容で提出されるケースは決して珍しくありません。実際の年間給与所得より低い場合、結果として基礎控除額が過大してしまい、本来あってはならない「低めに申告した方が得をする」という状況になってしまいます。
こういった背景もあるため、来年以降は基礎控除額の見直しにより修正の対象が増え、担当者の負担がさらに増大することが予想されます。
弊事務所では、年間の給与・賞与計算を行っている顧問先企業については対象者を抽出し、申告内容の修正が必要である旨をお伝えさせていただいておりますが、我々も負荷の増大については今から頭を悩ませているのが実情です。
「天下の愚策・年末調整」
2025年12月4日の新聞に掲載されていた、青山学院大学名誉教授・三木義一氏のコラムは、まさに多くの実務担当者の本音を代弁する内容でした。
以下、原文より引用させていただきます。
「天下の愚策・年末調整」
今、多くの書類提出を求められあたふたとするサラリーマンや、年末調整という愚かな制度のために忙殺されている企業の経理担当者、複雑になりすぎて困っている税理士たちであふれかえっている。
年末にこんなことのために働かされている国民は日本と韓国だけである。世界の真ん中で美しい日本を愛でる時間などない。アジアの片隅で、役所の負担軽減のためにせっせと働かされているのだ。しかも、無償で。
1947年、占領軍から申告納税制度への移行を要請されたとき、当時の大蔵省は徹底的に反対した。愚かな国民の確定申告書に第一次的に税額が確定する権利を与えるなどもってのほかだ。第一、国民みんなが来たら税務署がパンクしてしまう。だが、アメリカも強硬だ。そこで、確定申告を受け入れる格好にして、形骸化させるために、無知な国会議員を騙して年末調整を導入した。会社は無償で従業員の年末調整を行うという「役所に親切な制度」を強制され、そのため必要経費も認められない給与所得者たちが生み出されて約80年。 主権者であるはずの国民は騙されてばかり。
こんな制度をやめて、みんなで確定申告すればいいだけだ。自分でやれば少し賢くなり、財務大臣まで収支報告書の不記載を指摘されるような高市裏金内閣を生み出すことはなかったよ。いやだね~。
年末調整にマイナポータル活用の未来
年末調整が長年当たり前の制度として運用されてきた結果、多くの会社員は「会社がやってくれるもの」と認識しています。しかしその裏側では、膨大な確認作業と責任を負っている企業の年末調整担当者が存在します。
現在ではマイナポータルという仕組みがあるため、次のような役割分担ができれば、制度は大幅に簡素化できるはずです。
・企業:雇用している従業員ごとの給与収入・社会保険料のみを申告
・保険会社・証券会社:年間保険料・iDeCo拠出金を申告
・個人:給与以外の所得・扶養親族情報を申告
これらをすべてマイナンバーで紐づけて国が一元管理できれば、国民全員が簡単に確定申告を行える仕組みの確立も現実的だと考えています。
年末調整・ペイロール業務は「効率化」が不可欠な時代へ
年末調整は、制度の複雑化と責任の集中により、企業担当者の負担が年々増大しています。
もはや「慣習だから続ける」段階は過ぎ、業務そのものの見直しと効率化が必要なフェーズに入っているといえるでしょう。
年間ペイロールの運用や年末調整業務を、できるだけ正確に、効率的に、可能な限り属人化させず進めたいとお考えの企業様は、外部専門家の活用も選択肢の一つかと思います。
年末調整・給与計算に関するご相談がございましたら、弊事務所までお気軽にお問い合わせください。


